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東京地方裁判所 昭和41年(手ワ)1624号 判決 1966年6月28日

原告 株式会社栃木相互銀行

被告 間平馬

被告 和光建鉄株式会社

主文

1  被告らは原告に対し各自金一、〇〇〇万円及びこれに対する昭和四〇年一一月一五日から完済までの年六分の割合による金員の支払をしなければならない。

2  訴訟費用は被告らの負担とする

3  この判決はかりに執行することができる。

4  被告らが各自または共同で七〇〇万円の担保を供するときは、右仮執行を免れることができる。

事実

原告訴訟代理人は、請求の原因として

一、被告間は昭和四〇年八月一六日被告和光建鉄株式会社に宛てて額面五〇〇万円満期昭和四〇年一一月一五日、支払地東京都中央区、支払場所株式会社静岡相互銀行東京支店、振出地東京都港区、振出日昭和四〇年八月一六日、と記載した約束手形二通を振出した。

二、被告和光建鉄株式会社は、拒絶証書作成の義務を免除して右二通の手形を訴外富士工業株式会社に白地式裏書で譲渡し、同訴外会社もまたこれを拒絶証書作成義務免除のうえ原告に裏書譲渡し、原告は形式的に裏書の連続する右約束手形二通の所持人である。

三、原告は昭和四〇年一一月一五日右手形を支払場所に呈示して支払を求めたところ、支払を拒絶された。よって原告は被告らに対し各自本件手形金合計一、〇〇〇万円とこれに対する満期である昭和四〇年一一月一五日から支払済みまでの年六分の割合による利息の支払を求める。

被告らの抗弁に対し

本件手形のうち一通には被告ら主張のように訴外富士工業株式会社から原告への裏書に取立委任文句が付記されていたこと、又その文句が支払のための呈示後に抹消されたことは認めるが、右文句の記載は原告の事務員の書損によるものであったから、抹消訂正されている被告らのその余の抗弁事実は否認する。

と述べた<省略>

被告間代理人は請求棄却の判決を求め

答弁及び抗弁として、

被告間が本件手形二通を被告和光建鉄株式会社宛に振出したこと、右同被告会社が右手形を拒絶証書作成義務免除のうえ富士工業株式会社に譲渡したことは認める。しかし同訴外会社が右手形を原告に裏書譲渡したことは否認する。

本件各手形は訴外株式会社代表取締役阿久津勝三郎が原告に対し、割引を依頼し原告に右手形につき所要の信用調査をさせる必要のため原告にこれを交付占有させたもので、原告に裏書譲渡したものではない。又原告が本件手形の所持人であること、原告が満期日に支払場所に支払のため呈示されたことも否認する。

仮りに、同訴外会社が原告に本件各手形を裏書譲渡したとしてもそのうち一通の手形の裏書には取立委任の文句が付記されており、その余の一通の手形における右訴外会社の裏書には右文句は付記されていないとはいえ、その裏書はかくれた取立委任裏書であるから被告間が同訴外会社に対し有する抗弁をもって原告に対抗しうるものである。

すなわち、被告間は本件各手形を含む七枚の手形をもって、被告和光建鉄株式会社の代表者である黒古利三郎との間に融資金を得るため手形割引委任契約を締結し同人に右七枚の手形を交付したものであるが希望融資金が得られなかったので(割引金の一部は受け取ったが後に返還)右割引委任契約を合意解除し、被告和光建鉄は本件各手形を昭和四〇年一〇月一八日限り被告間に返還することを約したものである。訴外富士工業株式会社の代表取締役である阿久津三郎は同時に被告和光建鉄の経理担当取締役であり前記被告間と被告和光建鉄間の手形割引委任契約の締結、解除に関与していたものである。従って右被告会社から本件各手形の裏書を受けた訴外会社は右事情を知り、被告を害することを知って右各手形を取得したものであるから被告間は訴外会社に対し、被告間が被告和光建鉄に対抗しうる抗弁をもって対抗しうるものであるし、さらに訴外会社から前記のとおり取立委任を受けた原告にも対抗しうるものである。と述べた。

<省略>

被告和光建鉄株式会社代理人は請求棄却の判決を求め、

答弁及び抗弁として、

被告和光建鉄が被告間から本件手形二通の振出交付を受け、拒絶証書作成義務免除のうえこれを訴外富士工業株式会社へ裏書譲渡したことは認めるが右訴外会社がこれを更に原告へ裏書譲渡したこと、原告がその所持人であること、原告の呈示の事実はいずれも否認する。

本件手形のうち少くとも一通については原告の取得は期限後になされたものである。このことは、右一通の手形の支払期日当時の訴外会社の原告に対する裏書には「取立委任候に付」との文句が付記されていたが、本訴における原告提出の手形の写によれば右取立委任文句を抹消し譲渡裏書形式に改めている。そうであれば右約束手形呈示当時原告は未だ実質的に手形の譲渡を受けていないといえる。

従って右期限後裏書にあたる手形一通に対しては、被告和光建鉄は訴外会社に対し有する次の抗弁事由をもって原告に対抗しうるものである。

すなわち、被告間は金融を得る目的で本件手形を含め総額面二、五〇〇万円の手形割引を被告和光建鉄に依頼したが、その後その割引の不能が判ったので右依頼を両者合意の上解約し、本件各手形を被告間に返還することになった。

然るに訴外会社の代表取締役であると同時に被告和光建鉄の取締役経理部長である阿久津勝三郎は右手形割引業務を担当し右手形の返還を約しながらこれを返戻せず、右訴外会社に裏書譲渡の形式がとられたまま、さらに本件各手形を原告に裏書交付し、そのうち前記一通の手形は期限後裏書となったものである。と述べた。

証拠関係<省略>

理由

一、請求の原因事実は、原告主張の本件各手形の訴外富士工業株式会社から原告への裏書譲渡、原告がその正当な所持人であること、原告が満期に支払場所に呈示した事実を除いて当事者間に争いがない。

そして原告所持の本件各手形によれば訴外会社から原告への裏書譲渡の記載(うち一通については取立委任文句があった形跡はあるが抹消されている)及び満期に呈示するための持出銀行によるいわゆる交換持出印が認められるので、反証がない限り、本件各手形が呈示期間内に呈示され、原告がその正当な所持人とみるのほかなく、右呈示が誰によってなされたかは、本件の場合、ただ、本件各手形のうち一通が期限後に原告に譲渡されたか否かに関して重要であるに止まり、原告の権利行使に関するその他の点で問題とする必要がない。

二、そして、前記訴外会社が本件各手形を原告にただ信用調査のため預けたのみであるとの被告間の主張を認めるのに足りる証拠はない。

三、ところで、本件各手形のうち一通の手形について、前記訴外会社から原告への裏書は、かくれた取立委任裏書であると被告間は主張するけれども、これを認めるのに足りる証拠はない。また、他の一通の手形についても、被告間は、前記訴外会社から原告への裏書は取立委任であると主張し、原告もみずから右手形が支払のため呈示された当時右被告主張に沿う取立委任文句付の裏書があったことを認めている。しかし、原告所持の右手形によれば、右裏書における取立委任文句が現在抹消され、その抹消部分に前記訴外会社代表者名下の印影と同様の印影が存在していることが認められること、及び、取立委任のための手形被裏書人が、その手形の不渡り後、改めて取立委任文句を抹消してまで不渡手形の裏書譲渡を受けるようなことは通常あり得ないことをも考慮すれば、右取立委任文句の付記は当初からの誤記であって、その抹消は後日の単なる訂正措置に過ぎないとの趣旨の原告主張は一応理由があり、乙第一、第二号証が仮りに真正に成立したものとし、これと成立に争のない乙第三号証を併せて考察してもそれをもっては右判断を覆すのに足りる程の証拠とはなし難く、他にその証拠はない。

以上によれば右取立委任裏書を前提とする被告間の抗弁は判断をするまでもなく失当である。

四、<省略>

五、被告和光建鉄株式会社もまた、本件各手形中の一通の手形について訴外富士工業株式会社から原告への裏書に取立委任文句が付記されていたこと、それが期限後に抹消されたことを理由として、原告は同手形を期限後裏書によって取得したものと主張するが、その理由のないことは前記三に記述のとおりである。とすれば、右主張を前提とする被告和光建鉄のその余の抗弁は判断をするまでもなく失当である。

その他、右被告の関係においても原告が本件各手形の正当な所持人であることの前記推定に対する反証はない。

以上によれば原告の本訴請求は理由があるからこれを認容し、<以下省略>

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